少年サッカーのトレーニング計画を考えるうえでの二つの立場
少年サッカーのトレーニング計画は、二つの視点で作り上げるものだと思っています。
①あらかじめ立てた年間計画にしたがって作り上げる
②週末のゲームを分析し、優先順位の高いものから指導する
①あらかじめ立てた年間計画にしたがって作り上げる場合
→この場合、一年を見通した計画(カリキュラム)が必要です。
長所は以下のことが考えられます。
・カリキュラムが妥当なものであれば、再現性のある形でチーム作りができる。
・効率的にチーム作りができる
短所は以下のことが考えられます。
・カリキュラムにしばられ、現状のチームの特徴や課題に対して適切な優先順位で指導できていないときがある。
・子どもたちと、課題の共有が難しい場合がある。
②週末のゲームを分析し、優先順位の高いものから指導する場合
この場合は、①のカリキュラムのような視点とともに、②の試合の分析を適切にできるスキルが指導者側に必要とされます。
長所
・週末のゲームで出た課題を子どもたちと共有できたら、トレーニングをする必然性を子どもたちと共有しやすい。
短所
・指導者の分析力に委ねられるため、妥当な指導になるかどうかの質がブレやすい。
・スタッフ間で分析結果の共有が必要。
今回は、②の方法を採用。
週末のゲーム分析を軸に、週トレーニング計画を作ることにしました。
育成年代にこういう言い方をしていいのかはちょっと迷いますが、
戦術的ピリオダイゼーション理論に近い方法ですね。
理由は、
➊U10のゲームは、どのチームも現象の出方に共通する特徴があり、頻出する現象に対する対策を講じた場合、ゲームでより反復して経験させることができるから。
❷先週は勝敗としては負けが多かったので、勝つことでモチベーションを上げてあげる必要があると思ったから。
育成年代であることを踏まえ、留意事項としては
・サッカーの全体像を意識した中で、特定の技術戦術に今後偏りが出ないように配慮して進める必要がある。
ということがあると考えました。年間では、バランスのとれた育成になるように配慮していくことも留意していきたいと思います。
テーマ設定の理由
私の地域のU10年代のゲームの特徴は、大まかに言うと、以下の特徴があります。
チャンスになるとき
①クリアボールが、相手のセンターバックを越えて、そこに味方が走り込んだとき
②自チームのスローインが、相手のサイドバックの頭を越えたとき
③相手のゴールキック時に、前から奪えたとき
ピンチになるとき
④味方のゴールキックで、相手にボールを渡してしまったとき
⑤相手のクリアが、味方のディフェンスラインを越えたとき
⑥スローインで、味方のサイドバックの頭を越えられたとき
中高生や、小学校でも6年生のゲームなら、上記のシチュエーションは必ずしも頻出しません。
地域にもよりますが、U10の場合はまだサッカーの形が非常にシンプル。
発達段階から考えて、「自分・ボール・対戦相手」しかまだ認知できないという段階の子供もいます。
場合によっては、「自分・ボール」までが精いっぱいの場合も。
これは、発達とプレー経験の差から生じることなので、優劣としてとらえるべきではありません。
このときに、「なぜパスしないの?」とか、「マークを見ろといってるだろ!」なんて声かけをしている指導者にはなりたくないですね。
指導のアプローチについて
直接的に教えてあげる指導と、話し合ったり、問いかけで導いたりする指導がありますが、
私は、何でも話し合ったり気づかせたりという必要はないと考えています。
ある程度の枠組みを与えてあげることも大事。
今回の指導事項は、直接的指導の色合いが強い形でアプローチしようという方針でいます。
話を戻して、先週のゲームで、得失点に絡む6つのシチュエーションのうち、コーチングにより成長が見られたものは
③について。相手のゴールキック時に、前から奪う機会が増えた。
④について。味方のゴールキックで、相手にボールを渡してしまう→ゴールキックの始め方のデザインを提示できたことで、ピンチの回数をかなり減らせた。
⑥について。スローインで、味方のサイドバックの頭を越えられることは、スローインのスタートポジション修正により、なくなった。
いっぽうで、未だ指導できていないものは
①クリアボールが、相手のセンターバックを越えて、そこに味方が走り込んだとき(もっと意図的効果的にこのフェーズを生み出したい)
②自チームのスローインが、相手のサイドバックの頭を越えたとき(スローインについて触れられていない)
⑤相手のクリアが、味方のディフェンスラインを越えたとき(これがけっこうある。)
したがって、この3場面を修正できることが、現状、最も効率よく、自チームのサッカーを整理することだと考えました。
この3場面の修正のために指導すべきと考えた技術/戦術アクションは
・警戒・撤退・マーク
・サポート
・パス
です。
警戒・撤退・マークを覚えるためのコツ
このテーマ設定は、
⑤相手のクリアが、味方のディフェンスラインを越えてしまう
という状況を減らすために、必要な戦術要素は何かと考えて導いた答えです。
このシチュエーションがなぜ起きているかをもう少し具体的に分析してみます。
・味方が攻め込んでいるときに、反撃を受ける場合を考えて相手FWがどこにいるかを見ておく「警戒」という戦術行為を行う必要があるが、今はそれができていない。
・ボールを奪われた瞬間、守備のスタートポジションに戻る「撤退」という戦術行為ができていない。
・相手のDFやMFが、自チームのディフェンスラインの裏にボールを送ろうとしているとき、味方のDFは、相手ボール保持者を見ていて、自分の「マーク」すべき相手を見ていない。
・あるいは、開いた位置にいすぎていて、中央のスペースを埋められていない(撤退、マークの両方)
この状況から考えて、「警戒(ビヒランシア)」「撤退(レプリエゲ)」「マーク」という戦術アクションを伝える必要があると考えました。これらの戦術を身につけるトレーニングを考えてみようと思います。
トレーニングメニューは、目的が決まれば組むのはそれほど難しくありません。
ここではメニューは割愛します。
メニューの前に大事なことは、それぞれの戦術を身につける「コツ」は何かということ。
・具体的に
・子供に分かる言葉で
・トレーニングの体験を通して
説明し、腑に落ちる状態にもっていく必要があります。
週末のゲームのレベルを想定し、今伝えなくてもいいだろうものは、大胆にカットすることも必要。
適切な言い換えや、たとえ話を用いるなど、言葉のセンスがかなり要求される作業です。
「警戒」「撤退」「マーク」という戦術を身につけるうえで、「コツ」はなにか。
・攻撃しているときから、「相手がボールを奪ったら、ボールを出されそうな相手はいないか」「相手に使われたらいやなスペースはないか」と考えるようにする。(警戒:ビヒランシア)
・守備の切り替え時には、ボールに近い選手は、前にボールを蹴らせないように、相手の利き足の前に素早く寄せる。(前線の選手のファーストプレス)
・守備の切り替え時に、ボールから遠い選手は、守備のスタートポジションに「撤退」する。
・守備の切り替え時に、ボールから遠い選手は、大まかにはスタートポジションに撤退しながらも、「ボール・自分のマーク・自分」で3角形を作れる位置にポジションを整える。そうすることで、マーク相手とボールを同時に見られるようにしておく。(マーク「守備のトライアングル」)
・長いボールには後ろに走りながら対応し、頭を越えられないようにする。
・自分より手前に相手がパスを出したり、こぼれ球がきた場合は、素早く寄せて、相手より先に触ることを目指す(インターセプト)。
このあたりの「コツ」を理解してもらえるようトレーニングしていこうと思います。
サポート&パス を覚えるためのコツ
攻撃時に、チャンスになる展開は、
①クリアボールが、相手のセンターバックを越えて、そこに味方が走り込んだとき
です。
注目は、「パス」ではなく「クリア」である点。
この年代、一度に把握できる情報が対戦相手共々、多くはないので、意図的なパスで相手ディフェンスラインの裏を取っていると言うよりは、アバウトに蹴っているボールがつながっている場合が多いです。迷わず蹴る、の方がうまくいってしまうのです。相手も自チームも現状そういった傾向があります。
ですが、この状況はまもなく終わります。相手が成長してくるにつれて、数ヶ月後には通用しなくなるかもしれません。ですから、これでよしとするのではなく、より意図的なパスで相手ディフェンスラインの裏をつくことを教えたいところです。
3年生や、まだサッカーを始めたばかりの4年生のなかには、1対1の世界で精いっぱいで、味方との関係が前提となる「パス」という技術アクションに入っていけない段階の選手もいます。
時期尚早という選手もいるかもしれませんが、チームとしては、「パス」という技術アクションに手をかけてもいい段階と判断しました。選手個々の段階を踏まえながら、段階的に、個別に負荷を調整しながら指導していきたいところ。
パスは、出す側(パサー)の技術アクション「パス」と、もらう側(レシーバー)の戦術アクション「サポート」によって成立します。
したがって、パスとともに、戦術アクションである「サポート」の「コツ」も合わせて書き出してみたいと思います。
ここで、優先して指導すべきシチュエーションを想定します。
次の3場面を選びました。
A DF→MFのパス
B MF→FWへ。ただし、相手ディフェンスラインの裏へのパス。
C ディフェンダーが相手からボールを奪ってからのファーストパス
A DF→MFのパス
まずは、DFからMFがパスをもらう場面を想定してみます。多くの場合、その後に相手ディフェンスラインの裏にパスを出すために中盤でボールをもらうことが狙いになります。
サポートのコツ(DF→MF)
・パサーと自分との間に、相手がいない状態になるようにポジションを探すこと。(パスラインを引く)
・そのうえで、できればパサーに対して、斜めに立つことで、前方への視野を確保すること。
・狙っているパスラインが他の選手と重ならないようにすること。
・自分がもらいたいスペースを空けるように動くこと。
枝分かれして、さらにたくさんの「コツ」があります。
たとえば、「パサーが詰められて困っていたらどうサポートする?」など。
…しかし、現段階では、説明をあまり複雑化してしまうと何一つ理解させられない、ということも起こりえます。
緊急時はクリア、という「逃げ道の選択肢」を与えつつ、ここの「コツ」を伝えるのは見送り。
パスのコツDF→MF(心構えを含めて)
・GKからボールを受ける前、受けた後に、相手の立ち位置をよく見る。
・フリーの味方にパスを出す
・相手を自分の方に引きつけすぎない(選手の段階に応じて「引きつける」こと自体は意識させる。
・狙いをもってパスを実行するなら、ミスは気にしないで挑戦する。
・一発で相手ディフェンスラインの奧にパスを通せそうなときには、MFを選ばずに裏へのパスを選択する。
B MF→FWへ。ただし、相手ディフェンスラインの裏へのパス。
次は、主に中盤の選手が、相手ディフェンスラインの裏にパスを出すフェーズでのコツです。
サポートのコツ(MF→FW)
・FWは、自分がほしいスペースを空けておく
・FWは、ディフェンスラインより手前で準備する。パスが出るまでは前に走らない。
パスのコツ(MF→FW)
・MFは、ディフェンスラインの裏を優先的に狙う
・MFは、パスを相手ディフェンスの選手の間を通す
C ディフェンダーが相手からボールを奪ってからのファーストパス
この場面は、現状では、
・とにかくクリア
・タッチラインの外に蹴り出す
が、よく実行されます。
最初は無理もないですが、ずっとこのままではいつまで経ってもうまくなりません。
サポート、パスそれぞれに「コツ」を伝えて、この時期から改善に挑戦してみます。
サポートのコツ
・ボールを奪った選手に近い選手は、味方が安定してボールを保持しているときは、攻撃のスタートポジションに準じた位置からサポートに入る。
・ボールを奪った選手に近い選手は、味方が奪った瞬間で、安定して保持に入っていないのであれば、前にこだわらず、横や斜め後ろへのサポートに入る。
・ボールを奪った選手に近い選手は、味方の顔が向いている側にサポートに入る。
・ボールを奪った選手に近い選手は、味方がいよいよ困っているときは、斜め後ろ方向で、かつ近づいてサポートしてあげる。
・ボールを奪った選手に近い選手は、もしもらった際に自分もどうしようもない場合は、クリアやタッチラインから出すことも逃げ道としてゆるす。
パスのコツ
・ボールを奪った選手は、意図を持って、前方やディフェンスラインの裏にパスが出せるのであれば、実行する。
・すぐにパスを出さず、安定してボールを前に運ぶこともOK。
・クリアしたり、外に出したりしなくても攻撃を続けられそうであれば、それにトライする。
・確実にボールを奪っていない状態なら、体を入れてしっかりボールを隠す。
・味方のサポートをしっかり確認してパスを選択する。
ここでも、もっと上の学年なら伝えたい他のコツ、たとえば「フリーのスペースにボールを送り込み、カウンターを狙う」や、「密集地帯からボールを逃がすために、サイドを変えることを考える」といったものは、戦術負荷を下げるために指導しないこととします。
どれくらいまでなら理解できるかは、実際子どもたちに伝えていく中でしかちょうどいいところは分かりませんので、これからの子どもたちの様子からちょうどいいところを見つけていきたいです。
まとめ
今回は、先週のゲームで出た課題を抽出し、ゲーム改善を考えたときに優先順位が高いと判断した技術戦術
・警戒・撤退・マーク
・サポート・パス
について、指導すべき「コツ」を書き出しました。
A学校のカリキュラムのように、シーズンはじめに設定した計画に則り指導していくことと、
B週末のゲームから抽出した課題を解決するような(あるいは長所をさらに磨くような)トレーニング計画を立てること。
どちらも必要なことですが、今回は、
B週末のゲームから抽出した課題を解決するような(あるいは長所をさらに磨くような)トレーニング計画を立てること。
を念頭に週間のトレーニング計画の大枠を考えました。
木造建築のように、土台を作ったうえで、下から積み上げていくように作っていくのか。
氷の彫刻のように、大まかな全体像を整えていき、次第に細部に着手するのか。
私の中には、
・自分なら大まかな全体像を整えていくような指導をされた方が、しっくりくるかな。
という感覚があります。
子どもたちとともに、いろいろ試しながら作っていけたらと思います。
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