最近、U10世代の練習を見る機会が多いです。
「即座の習得」を備えた子どもたちは、ボールを扱う技術において、一日のトレーニングでも飛躍的に成長します。
いっぽうで、サッカーのプレーをするうえでの知識は、具体的に教えてあげないと理解できません。
技術の成長と、チームとしての成熟度に応じて、時期が来たら適切な方法で教えてあげる必要があります。
今日は、サッカーのプレーをするうえでの知識「スタートポジション」について解説します。
一例として、「相手ゴールキック時のスタートポジション」を例に考えてみます。
1、スタートポジションの定義
スタートポジションとは何か?
定義:サッカーの局面・さらに細かいサブフェーズ(セットプレー時を含む)ごとの、自チームの各選手の立ち位置。
留意:選手の意図しておくべきポイントも合わせて理解させる。
フォーメーションとスタートポジションはイコールではありません。
システム(フォーメーション)というものは、より一般的な概念として認知されていますね。これは、選手の配置を数字で表わしたものです。例:1-3-3-1
システムは、基本的には局面やフェーズによってころころと変わったりはしません。(可変式でない限りは)
それに対してスタートポジションは、
・各局面(攻撃・守備・攻→守・守→攻)
・各サブフェーズ(例:攻撃の中の「自チームゴール付近からのビルドアップ」「相手ゴールキック時」)
による選手の立ち位置を意味しています。
したがって、攻撃時、守備時では、選手が実際にスタート段階で立つ場所は違うので、
一つの言葉で(たとえば1-3-3-1というふうに)ひと言で言えるものではありません。
2、スタートポジションの必要性
スタートポジションを伝える目的=プレーに基準をもたせること!
サッカーは、変化の激しいスポーツです。相手との相互作用や当日の天候、ピッチサイズなどさまざまなものの影響を受けて、毎回その試合固有の形でゲームが展開されます。
だからこそ、サッカーのチームは、ある基準のもとでプレーする必要があります。
基準を共有できなければ、ただでさえカオスの要素を含んだサッカーというゲームは、ますますカオスになっていきます。
行き当たりばったりのゲームでは、戦略的に戦うことができません。
また、正しいスタートポジションをとれないカオス状態では、戦術を理解できるようにはなりません。
3 「いつ/だれが伝えるのか」はチーム事情に合わせて現実的に
ジュニアを指導されている少年団などでは、平日と休日で指導するスタッフが変わることがあります。その場合、休日で起きている課題を平日の指導者は把握できないことがあります。
また、それぞれの指導方針でランダムに指導してしまうと、指導に一貫性がなく、子どもたちが迷ってしまうことも起こりえます。
休日のゲームの情報を平日のコーチが映像で確認したり、チームの課題をスタッフで共有するようにスタッフミーティングを行うことも考えられます。
ですが、そういったことは現実的になかなかできない場合もあります。
チーム事情に応じて、いつ、だれが、何から伝えるのかは現実的に考える必要があります。
子どもたちが混乱しないように、でも、各指導者の事情に合わせて、ナーバスになりすぎず進めていくのがいいでしょう。
4 スタートポジションは、再現性のあるもの/重要度の高いものから伝えていく
休日と平日で一貫した指導を行える状況のクラブなら、全ての局面のスタートポジションを順序立てて伝えることは可能かもしれません。
ですが、少年団のように、皆さんのボランティアで、来れるときに指導してくださる運営の形態の場合、なかなか一貫性を持って伝えるのは難しいという事情もあります。
その場合は、
・より起きることが多い
・より重要度の高い
局面・サブフェーズのスタートポジションから指導していくのが効果的です。
なぜなら、
・より起きることが多い→似たシチュエーションを反復することが多い
・より重要度が高い→得失点に直結しやすい→印象に残りやすい
からです。
子どもたちは、発達段階や発育の早い遅いの違い、サッカーの理解度によっても、理解力に差が生じます。
チームを全体的に見たときに、学びやすいものから教えていくという視点は非常に重要です。
先日のあるU10の試合では、明らかに得点につながるシチュエーションに特徴がありました。
それは、
・相手ゴールキック→得点シーンに直結
・味方ゴールキック→失点シーンに直結
でした。
次の段では、「相手ゴールキックのとき」を例に、スタートポジションを考えてみます。
5 一例:相手ゴールキックのときのスタートポジションを決める際の留意事項
①キーパーのキックが頭を越えられないようにする
②サイドの選手も中央に絞り、サイドの選手と中央の選手の間を通されることがないようにする
→相手のサイドの選手が開いていようが、こちらはそれにあわせて開かない
③ピッチの目印(ペナルティエリアやセンターサークルなど)を基準として示し、明確に指示する
④その位置に立つ意図を、選手に伝える
合わせて解説します。
①キーパーのキックが頭を越えられたり
②サイドの選手と中央の選手の間をパスで通されたりして、
ボールに自分が越えられてしまうと、その瞬間、越えられた選手は守備において役に立たない状態になってしまいます。
また
②サイドの選手と中央の選手の間を通される
ということは、相手に、中と外に両方パスコースを与えているということです。
予測して、組織的にプレッシングするという意味においても、相手のパスの選択肢を減らしていく必要があります。
そして、多くの場合、パスは外側に出るように誘導した方が組織的プレッシングは行いやすいです。
ということは、「中にパスを通されない立ち位置を取る」のが多くの場合正解になります。
ジュニア年代でよく起こるミスとして、開いた相手のマークを意識するあまり、守備時に横に広がった立ち位置を取る、というものがあります。
マークというコンセプトを覚えたての時期はそうなってしまってもいいと思います。その立ち位置を取ることで失敗を経験したら、よきタイミングで立ち位置を教えてあげる、という考えもいいかもしれません。
③ピッチの目印(ペナルティエリアやセンターサークルなど)を基準として示し、明確に指示する
ペナルティエリアやセンターサークルなど、ピッチ上に描かれた目印を使って立ち位置を伝えてあげるのは非常に有効です。
そういった目印は、ゲーム中に変わることがなく、いつも一定の基準となるからです。
④その位置に立つ意図を、選手に伝える
ただ機械的にピッチ上の立ち位置を示すだけでは、スタートポジションに立つ効果はきわめて限定的です。
・その位置に立つことでどんな効果を狙っているか。
・その位置から、次に何を狙うのか。
子どもにわかるように、平易な言葉で伝えてあげられたらいいですね。
例として
・「中をしめて立つことでパスがサイドの選手に出るように誘導して、予測通りのパスが出たら一気につめるんだよ。周りの選手もボールの方向に移動してボールの周りのスペースを狭くしよう」
・相手のキーパーはロングキックを蹴るのが好きだから、まずは頭を越えられないような場所にスタートポジションを取って、落下点に対して前に出るようにしよう」
などの声かけがあります。
6 他に、「スタートポジションを伝える」際に優先して伝えるべき、重要度の高い局面/サブフェーズは?
5のような詳述はここではしませんが、私が見ているU10のゲームにおいて、得失点により関わる重要度の高いサブフェーズは
・味方のゴールキック場面
・相手のスローイン場面
・味方のスローイン場面
・相手のセンターバックが安定してボールを保持している場面
です。
現状、自チームの得点シーンは、相手のボールを奪った際のカウンターがほとんどなので、
攻撃がより意図的に組み立てられるようになってくれば、
・味方のセンターバックが安定してボール保持している状態
も、立ち位置としての重要度が増していくと思います。
こちらは、スタートポジションだけでなく、
そこからどう動くか(モビリティ)の要素を含んできます。
まとめ
【U10チーム成長記録】
ゲームを通して身につける「スタートポジション」の話でした。
個人技術、個人や2対2程度の戦術が全く習得・理解できていないうちは、チームの戦い方を先に伝えてもあまり意味がない、という考えもあると思います。
その考えには基本的に私も同意します。
多くの戦術は、技術や、少人数での戦術の土台のうえにおいて成り立つものです。
ですが、この「スタートポジション」というコンセプトは、高度な戦術ではなく、試合に臨むべき基本的な枠組み、自チームのルールに近いもので、
・ゲームに参加する以上、もしかしたら最低条件に近いレベルで
理解して試合に臨むべきかもしれないですね。
それくらい、基本的なチームのフレームになるものです。
日本では、1-3-3-1のような「フォーメーション」と呼ばれる数字はよく伝えられます。
それが、各局面/サブフェーズのスタートポジションまで有効に伝えられると、さらに子どもたちがサッカーを楽しめるようになります。
子どもたちの段階に応じて、子どもたちが「よし、やってみよう!」と思ってもらえるような声かけをしていけるといいですね!
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