家庭学習の見守りが必要な時期がやってきました。
中学一年生にとっては新しい学校生活が始まり、授業や課題に対して慣れていない状態かもしれません。
また、最近の中学校では、定期テストの他に提出物や小テストの成績がますます重要視されるようになってきています。
6月には多くの学校で、一学期の定期テストがあります。
このテストが重要だという意識は皆さんがもっていると思いますが、この6月以上に、実は5月こそがより重要であると考えています。
保護者の方は家庭学習を見守る上で、以下の5つのことに注意してください。
1 正しい時間に学習する習慣の確立
正しい学習習慣が身についていないと、いくら勉強時間を確保しても結果に反映されません。
毎日同じ時間、難しければ2パターン程度のタイムスケジュールの中で、決まった時間に机に向かう習慣をつけさせることが大切です。
脳がさえる時間は、午前中の9時から12時と、16時から18時、次いで18時から20時まで、と考えるのが妥当です。
20時以降にやっている勉強は、「やった感」は出ますが、実は効果は疑わしいと言えます。
現在、中学生の子どもを持つ親世代の皆様の多くは、深夜まで勉強することがテスト勉強、受験勉強だ、といったイメージをもたれているかもしれません。ですが、この30年間で定説は変わりました。そう考えると、最適な家庭学習、勉強法のイメージを刷新する必要があるかもしれません。
2 目標の設定
目標がなければ、子どもたちは何のために勉強しているのかわかりません。明確な目標を設定し、それに向かって日々の学習を進めさせることが必要です。
毎日の家庭学習の目標は、多くの場合、
・定期テストや小テストが近くなってきたら→「テストでいい点数を取ること」
・ちょうど今の時期のように、直近にテストがない時期→「日々の学習内容を理解し、学校で扱った部分の問題が出されたら解ける状態になること」
が目標になるでしょう。
子どもたちは、授業の時間に理解できたことは「わかった」と思い、それ以上定着させるための時間を必要と感じないものです。
ですが、長年の教師としての体感から言えることは、「わかる」と「できる」は別物だ、ということです。
15分くらいの、あるいはもっと短い時間でもいいので、自分が「わかった」と思っていることが、問題として出されたときに「できる」という状態になっているか、定期的に確認する時間を取るように促してあげましょう。
使用するものは、教科書で十分です。
問題をいくつか口頭で出してあげるだけでも効果絶大です。付き合う保護者の方ご自身の負担にならない形で、ごくごくライトな方法を選択しましょう。
それが難しい場合は、学校で購入しているワークブックが最も使いやすいでしょう。復習のためにワークをもう一冊買う、というアイデアは、最も効率よく復習するための非常に賢いアイデアです。
ついでにいうとコストパフォーマンスにも優れています。5教科全て二冊目を購入しても数千円、学習塾の月謝の何分の一しかかかりません。
いっぽうで、学校のワークなどで復習する以上にいたずらにやるべき問題集を増やすのは、おすすめできません。効率の悪い教材で、ピント外れの復習に長い時間を増やしている生徒はたくさんいます。全国展開している教材は、地域の実情に合っていないものも本当にたくさんあります。
学習に対する不安をあおり、大して精度の高くない教材を高額で売ってくる業者に注意してください。
中学校の教材で言えば、教材の価値と価格は全く比例していないと思います。価格差は、ブランドの差だったり、広告宣伝費を上乗せした部分だったりが大きいと思います。
定期テストは先生が作るのですから、学校で使っている教材や小テストの問題用紙以上に精度の高い一般の問題集はほぼ存在しないと考えていいでしょう。
学習計画についての話題に戻ります。こどもが、自分で学習計画を立てられない場合は非常に多いです。最初から自分で「ぬけ・もれ」のない学習計画を立てられるこどもはかなり少ないと思います。そんなときは、一緒に学習計画を立ててあげる大人が必要です。一緒に計画を立ててあげたり、自己決定を尊重しながら相談役になってあげることで、子どもたちは自分で考えることに挑戦でき、自己管理能力を身につけることができます。
※教員のお子さんは、おそらく一緒に住んでいる「先生」(保護者の方)から学習の進め方について雑談の中からポイントを聞くことが多いでしょう。私の教員経験からの感覚値ですが、教員のお子さんが学習計画を効率よく立てられている割合は多いと思います。
私自身も元教員なので、自分の子どもに話している内容で、一緒に住んでいるからこそわかるように説明できているなと思うことはあります。自分の子どもにだけこっそり教えるような秘密の情報があるわけではないのですが、授業で生徒に伝えているアドバイスと同じ内容でも、授業で40人に一斉に伝えるのと、家庭学習の際に機会を捉えてピンポイントのアドバイスを送るのでは、情報の伝わり方が違うと感じます。
昨年から、少人数に対して週一回学習方法について話をする機会をいただいていますが、週一回の関わりでも、少しずつアドバイスは浸透していくんだな、という手応えは感じます。それでもやはり、各ご家庭で正しい方法でサポートできる環境を構築できればそれがベストだと思います。
3 提出物の重要性
提出物(提出したか、優れたものを提出できたか)は、評定を算出していく上で、定期テスト以上に重要な役割を果たします。提出物を期日までにしっかりと出すことが、定期テストで10点多く取る以上に実は大事とも言えます。(こちらの記事も参照してください)最近では、提出物の内容についても詳しくチェックされる傾向があり、それは昨今の学習指導要領改訂が大きく関わっています。
改訂学習指導要領では、
・学習前と学習後で、自分の考え方にどのような変化が生じたか
・自分の生活にどう活かしていけると考えるか
といったことを子どもたち自身に考えさせることを重要視しています。
つまり、そのようなことを読み手に伝えるようなレポートを書くこと、感想を伝えることが大切です。平易な言い方で言えば、「詳しく書く」「自分の生活に関連させて、他の人とかぶらないことを書く」とも言えます。
※さらに、これは現場を見てきたものしか語れない部分かとおもうのですが、カラフルであったり、図表が入っていたりというレポートは、良い点数がつく傾向があると思います。(確信はありますが個人の見解です。)
慢性の超過勤務の中で100枚以上のレポートを採点している教師は、無意識に、短時間で工夫が見取れるものにいい評価をつけがちになります。できるだけ主観を入れないように評価しようと思っても、それは非常に難しいことです。月100時間超の残業を抱える中で、さらに深夜や休日に、3時間かけて、全員のレポートに目を通す、と考えてみてもらえれば、この状況で教師の皆さんが陥りやすい精神状態も想像していただけると思います。
まずは、提出物については
・「未提出を絶対に避ける」ようにしたうえで、可能であれば
・「詳しく」「独自性のある」レポート提出を促しましょう。
4 楽しいことをやる時間を確保する
中学生は、小学生に比べ、より多くの時間を学校で過ごします。長時間の部活動などがある日はなおさらです。そして家に帰ったら、「勉強をしなければならない」と考えているものです。ですが、帰ってから寝るまでの短い時間、ずっと勉強のことばかり気にしていては、ストレスが溜まり、長く続けることが難しくなってしまいます。
そこで、毎日自分の好きなことをできる時間を確保することが大切です。自分の好きなことをすることで、「日々満足して生活できている」という実感が得られ、家庭学習を進めるうえでのエネルギーになります。もし、帰宅後や休日に、なんとなく遊んでいながらも「勉強しなきゃなー」などと考えているくらいなら、いっそ「この時間は勉強しない、してはいけない」という時間を設定することも良いでしょう。
定期的に遊びや趣味に没頭することで、家庭学習に取り組むための心の余裕が生まれます。
そこで、家庭学習を行ううえで効率がいいとは言えない20時以降の時間帯を、好きなことをやったり、家族とコミュニケーションを取る時間として設定することをおすすめします。
一日24時間の各時間帯には、それぞれ向いている活動、向いていない活動があります。このことを踏まえ、効果的な「24時間デザイン」をすることが重要です。
毎日自分の好きなことができ、日々満足して生活できることが、長く家庭学習を続けていくために必要だと強調しましたが、それは学習のためのエネルギーにもなります。家庭学習においては、学習効率だけでなく、生活の質を高めることも重要であるということを忘れずに取り入れていきましょう。
5 子どもの自己決定の機会を奪わない
家庭学習において、適切な親のサポートを受けることは非常に有効です。しかし、親が子供の全ての家庭学習計画のレールを敷くことは逆効果になることも多いです。子供たちが自分で学びたいと思うことを見つけ、自己決定できるようにすることが重要です。親があまりにも関与しすぎると、子供たちは自分で考えることができず、自己決定力や自立心が育ちません。
親は、子供たちに学びたいことを尋ね、子供が興味を持っていることを見つけることができます。子供たちは、自分で学びたいことに対して、より熱心に学び取り組むことができます。また、自分で立てた計画にしたがって学習することで自信をつけることができ、自己決定力や自立心を育てることができます。
親は、子供たちに対して、学習方法や時間管理などについてのサポートを提供することはできます。しかし、親が子供たちの家庭学習計画を決めたり、子供たちに代わって学習を進めたりすることは避けるべきです。子供たちは自分で学ぶことを楽しみ、自分の成長につながることを見つけることができます。そしてそのような「自分の好きなこと・強みを知ること」や「成長していることの実感」は、自己決定と試行錯誤を積み重ねながら少しずつ獲得していくものです。親としてはいろいろ口だし、手出しをしたくなりますが、子どもの自己決定の余地を残し、自己決定できたこと自体を評価し、その行動を強化していくことのほうが大事です。遠回りのように思えても、失敗させることも大事です。
もっとも、失敗させることは、子供を成長させるうえでは必要不可欠ですが、高校入試を考えたときには、一学期の評定上の失敗は、明らかに数字として残り、進路選択の時に不利に働くこともまた事実です。だからこそ、この5月という時期にたくさん挑戦させ、いくつかの失敗も含めて経験させ、その経験を6月のテスト対策に活かすという考えが重要になります。
究極全ては「トライ&エラー」なのだとは思いますが、早めに行動し、失敗することが非常に大切だと思います。
【まとめ】
家庭学習は、中学生の学習にとって非常に重要な時間です。
定期テストだけでなく、提出物や小テストなども評定に大きく影響します。
生徒や保護者の方の多くが、定期テストの点数ばかり過剰に重要視しているように感じることがあります。ですが、提出状況や小テストなど、日々の取り組みも同様に評価に反映されます。そして、提出物や小テストの評定算出の際の「重み」は、きっと多くの皆さんが予想されるものより遙かに大きいものです。(こちらの記事を参照してください)さらに言えば、昨今の教育の潮流を考えると、定期テストの比重はどちらかといえば小さくなっていき、日々の取り組みの比重は上がっていくでしょう。
日々の学習計画を立てるだけでも慣れないうちはけっこう大変です。さらに、こういった教育の実情を鑑みて、日々の学習計画の中に反映させていくことは、大人でもに難しいことです。
ですが、情報一つ一つは、決して理解に苦しむような難解な論理ではありません。
時間はかかっても、中学生の保護者の方には、こういった情報をまず理解していただき、適切に子どもの学習に関わっていただけたらと思います。
ただし、親がすべての計画を立ててやらせるだけでは、中学生自身がやる気を持てず、逆効果になってしまうこともあります。「言われたらその逆がしたくなる」というのは誰しももっている性質です。親が子どもたちに十分な自己決定の機会を与え、適度にサポートすることが重要です。また、学習には適度な休息や運動も欠かせません。
家庭学習の見守りに当たる保護者の方々には、本記事で紹介した5つのポイント、とくに5つ目のポイントである自己決定の大切さを意識していただき、子どもたちの学習をサポートしていただければ幸いです。
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